勧められるがままに半信半疑でそのCDを購入し、一度聴いただけで、その美しい旋律と深く心を揺さぶる音楽に虜になってしまいました。映画のシーンが鮮やかに蘇り、登場人物たちの感情が音で表現されているようでした。それが、坂本龍一氏の音楽との出会いでした。
2023年、坂本龍一氏は惜しまれつつもこの世を去ってしまいましたが、芸術の分野での貢献は計り知れず、世界各地で、その音楽は今もなお多くの人々に愛され、影響を与え続けています。
そんな坂本龍一氏の、日本初となる最大規模の個展「坂本龍一 |音を視る 時を聴く」が、東京都現代美術館で開催されました。この貴重な機会に、坂本龍一氏の音楽世界を深く体験したいと思い、足を運びました。
目次
「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」について
2024年12月21日から2025年3月30日まで、日本では初となる最大規模の個展「坂本龍一|音を視る 時を聴く」が開催されました。この展覧会は、五感を刺激し、従来の音楽鑑賞や美術鑑賞の枠を超えた、全く新しい体験を提供するものです。坂本龍一氏の音楽が、視覚や触覚を通して体感できるインスタレーション作品の数々を展示しています。
暗闇の中に光と音が織りなす空間が広がる作品や、自然の音と電子音が融合した作品など、彼の音楽世界を全身で感じることができるでしょう。
アクセス
都営地下鉄の大江戸線または、東京メトロの半蔵門線の清澄白河駅を下車後、東京都道474号浜町北砂町線を東へ進みます。途中交差点を右折し、東京都道319号環状三号線を進むと左手方向に東京都現代美術館が見えてきます。
音を視る 時を聴く
チケット購入と展示会入場まで
会場の入口付近に、チケット購入と展示会入場までの目安時間の案内があります。
この日は土曜日でチケット購入までは約80分、展示会入場までは約60分なので、2時間以上並びました。
「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」のチケット価格は、一般2,500円(税込)です。
当日券を購入する場合、土日祝日などの繁忙期には約1時間待ちになる可能性があります。公式サイトから事前にチケットを購入することをお勧めします。
なお、チケットをお持ちの場合でも、展示会場への入場まで約1時間かかる場合があります。
展示内容
最初の展示物は、2021年初演の舞台作品「TIME」を基に、今回のために制作された新作。
「時間とは何か」という問いを夢の物語で表現し、「人類」と「自然」との関わりを鑑賞できます。
こちらは、「water state 1(2013年)」の光景です。
降水量は、気象衛星の全球画像から会場を含む地域から抽出し、一年ごとに凝縮したデータをベースにしているそうです。
天井の装置から水盤に雨を降らせると同時に音が変化していき、時間の経過に合わせて照明が微妙に変化することで、さまざまな表情を観察できます。
こちらは「AMBIENT KYOTO 2023」で発表された大型インスタレーションを、東京都現代美術館の展示空間にあわせて再構成した「async–immersion tokyo」。
音楽と映像がシンクロしていないため、鑑賞のタイミングによって同じ映像を見ていても聞こえる音楽は違うのが特徴的です。
宮城県農業高校で発見された、東日本大震災で津波に襲われたピアノの映像も使われております。
24台のiPhone/iPadがそれぞれ「小さな光る窓」となり、坂本龍一氏が過ごしたニューヨークのスタジオやリビング、庭などの断片的な映像が映し出されます。
環境音と楽曲をミックスしたサウンドが空間に響き渡り、まるで氏のプライベートな空間に迷い込んだかのような感覚に陥ります。
それぞれのiPhone/iPadに耳を傾けると、環境音も聞き取ることができ、楽曲とのミックスによる音と映像の構成が、独特の奥ゆかしさを醸し出しています。
それは、坂本龍一氏の内面を覗き込むような、深遠で魅力的な世界への没入体験となっているように思えました。
東京都現代美術館の地下2階には、屋外に広がるサンクンガーデンがあります。
そこに設置された「《LIFE–WELL TOKYO》霧の彫刻」は、霧と光と音が一体となり、幻想的な空間を生み出しています。まるで夢の中にいるかのような、浮遊感と静寂に包まれた、特別な時間を体験できるでしょう。
サンクンガーデンに降り立つと、地上からは想像もつかなかった光景が広がります。白い霧が立ち込め、周囲は真っ白な世界に。まるで雲海の中に迷い込んだかのような、不思議な感覚に包まれます。
霧は冷たく、肌にまとわりつくように感じられます。まるで冷凍室にいるかのような冷たさで、露出している皮膚や洋服も濡れました。
また、霧の中では視界が遮られ、方向感覚を失いやすくなります。他の来場者と衝突しないよう、足元には十分注意が必要です。
地上からサンクンガーデンを眺めると、霧が白いベールのように広がり、幻想的な風景を楽しむことができます。チケットを購入する際に、ぜひこの景色も楽しんでみてください。 チケットを購入するとき、サンクンガーデンの光景をこのように地上から鑑賞することができました。
地上からでは感取れませんでしたが、実際にサンクンガーデンで体験したときは、冷凍室のように冷たく、露出している皮膚や洋服なども濡れます。
1970年の大阪万博のペプシ館を水による人工の霧で覆った「霧の彫刻」で知られ、世界各地で霧のプロジェクトを実施している中谷芙二子とのスペシャル・コラボレーションです。
この作品は、1970年の大阪万博でペプシ館を水による人工の霧で覆った「霧の彫刻」で知られる中谷芙二子氏とのスペシャル・コラボレーションです。中谷氏は、世界各地で霧を使った作品を展開し、自然現象と芸術を融合させる手法で高い評価を得ています。
「Music Plays Images X Images Play Music」は、1996年に水戸芸術館で初演された坂本龍一氏と岩井俊雄氏による音楽と映像のコラボレーションです。
本展では、岩井氏が所蔵するアーカイブ資料から発掘された、坂本氏が「アルスエレクトロニカ97」で演奏した際のMIDIデータと記録映像をもとに、この伝説的なパフォーマンスが再現されています。
岩井氏が当時のプログラミングを再構築し、坂本氏愛用のMIDIピアノが演奏を奏でます。映像には坂本氏がピアノを演奏する姿が映し出されますが、実際にピアノの前に人はいません。映像がガラスに反射し、まるで坂本氏が演奏しているかのように見えるのです。
先鋭的なメディアを巧みに使いこなし、音を通した表現の可能性を拡張した坂本龍一氏の原点ともいえる姿を、見て、聴いて、感じることができるでしょう。
映像と音の世界に没入できること間違いありません。
まとめ
坂本龍一氏が生涯にわたり探求してきた「時間」というテーマも、重要な要素として取り上げられています。彼の作品を通して、時間の流れや、その中で生じる変化、そして永遠に続くものなど、様々な視点から「時間」について考えることができるでしょう。「坂本龍一|音を視る 時を聴く」は、単なる個展ではなく、坂本龍一氏の芸術と思索の軌跡を辿る、特別な旅となるはずです。